民事再生とは?流れ、メリット・デメリット、会社を維持しながら債務整理
会社の経営がうまくいかず、どうしても自力での経営再建がうまくいかないというケースがあります。
特に現在は、新型コロナウイルスで受けた融資の返済が始まり、倒産に追い込まれる企業が急増しています。
法律で認められた「倒産」手続きにはさまざまなものがありますが、そのうちの一つに「民事再生」があります。
民事再生は、会社を維持しながら債務を圧縮できるというメリットがあり、債務に苦しむ会社にとって利用を検討する価値があるといえるでしょう。
この記事では、民事再生とはどんな手続きなのか、そのメリット・デメリットは何なのかについて詳しく解説します。民事再生を利用する際の参考にしてください。
目次
民事再生とは?
民事再生とは、経営が危うくなって支払不能や債務超過のおそれを生じた会社につき、会社を維持しながら債務を大幅に圧縮することで経営再建を図る制度をいいます。
企業や個人事業主などの事業者が、経済的な困難に直面した際に、債務の支払いを減額したり、債務の期限を延長したりすることで、再建を目指すものです。
民事再生の場合、経営陣を含めて、会社の体制を大きく変えずに債務の圧縮を実現することができます。
また、民事再生は、大企業・中小企業を問わずあらゆる会社が利用できることも特徴といえるでしょう。
民事再生手続きのメリットとは?
民事再生手続きには、会社を清算してしまう破産手続きに比べて、以下のメリットがあります。
事業を継続しながら借金を大幅に減額できる
民事再生の場合、会社を清算せずに済むため、今の会社の事業を継続しながら、借金を大幅に減額することができます。
そのため、既存の取引先との関係を維持できる可能性があるなどのメリットがあります。
経営者が地位を維持できる
また、民事再生の場合、経営陣は引き続きそのポジションに居座りながら、会社の再建に取り組むことが認められています。
特に同族企業などの場合には、債務整理後も同じ経営陣で事業を続けていきたいというニーズが高いでしょうから、民事再生が有力な選択肢になります。
民事再生手続きのデメリット・注意点とは?
一方で、民事再生を行う際には、以下のようなデメリット・注意点に気を付ける必要があります。
予納金・弁護士費用に充てる費用が必要
民事再生手続きを行うに当たっては、裁判所に予納金を納付する必要があります。
その金額は、負債総額によっても異なりますが、数百万円規模になります。
民事再生の予納金の金額
負債総額 | 予納金の金額 |
---|---|
5,000万円未満 | 200万円 |
5,000万円~1億円未満 | 300万円 |
1億円~5億円未満 | 400万円 |
5億円~10億円未満 | 500万円 |
10億円~50億円未満 | 600万円 |
50億円~100億円未満 | 700万円 |
100億円~250億円未満 | 900万円 |
250億円~500億円未満 | 1,000万円 |
500億円~1,000億円未満 | 1,200万円 |
1,000億円以上 | 1,300万円 |
さらに、民事再生にかかる弁護士費用も、数百万円から数千万円に及ぶケースが多いでしょう。
予納金と弁護士費用を合わせると、手続き費用が高額になってしまうことが、民事再生のネックといえます。
代表者が信用情報機関のブラックリストに載ることがある
代表者が会社の債務を連帯保証している場合、民事再生によりカットされた債務を代表者個人が支払わなければなりません。
もし支払えずに破産などに追い込まれてしまうと、代表者個人が信用情報機関のブラックリストに載り、5年~10年の間ローンなどが組めなくなります。
なお、ブラックリストに載るのはあくまでも代表者個人であり、民事再生をした会社自体がブラックリストに載ることはありません。
担保権の実行を原則として阻止できない
民事再生は、原則として会社に対するすべての債権について、強制的にカットが行われます。
しかし、担保権が付着した債権については例外で、債権カットを受けることなく、手続き外で担保権の実行により債権回収がされてしまいます。
そのため、担保付の債務を多く抱えている会社にとっては、民事再生は必ずしも実効的な再建手段にならないこともあるでしょう。
債権者の一定以上の同意が必要
民事再生では前述のように、再生計画について、債権者から一定以上の同意を得ることが必要となります。
この点は、債権者の同意が不要の破産とは大きく異なる点です。
したがって、民事再生について債権者の同意が得られる見込みがない場合は、民事再生を利用することはできず、破産手続きを利用するほかないでしょう。
民事再生手続きの流れ
民事再生の具体的な流れについて見ていきましょう。
事前準備|弁護士に相談しながら進める
民事再生の手続きは裁判所で行われるので、提出書類などの準備にかなりの労力がかかります。
また、民事再生手続きの内容自体もかなり複雑です。
そのため、事前に弁護士に相談・依頼を行い、弁護士の指示に従って準備を進めると良いでしょう。
再生手続開始の申立て
民事再生への準備が整ったら、裁判所に対して再生手続開始の申立てを行います。
会社の場合、申立先は主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所です(民事再生法5条1項)。
なお、再生手続開始の申立ては、債務者である会社自身のほか、会社の債権者も行うことができます(同法21条1項、2項)
監督委員の選任
裁判所は、再生手続開始の申立てが受理した後、監督委員を選任することが通例となっています(民事再生法54条1項)。
監督委員が選任された場合、会社は、裁判所から指定された一定の行為(たとえば財産の処分など)をするためには、監督委員の同意が必要となります(同条2項、4項)。
監督委員としては、民事再生などの経験が豊富な弁護士が選任されるのが通常です。
債権者に対する説明会
再生手続開始の申立てから数日後あたりを目安に、会社主催で債権者に対する説明会を行います。
説明会の実施は、法律で義務付けられているものではありません。
しかし、以下の観点から、債権者に対する説明会を誠実に実施することが求められます。
- 債権カットという大きな不利益を受ける債権者に対する謝罪
- 再生計画への債権者の同意を取り付けるための根回し
- 会社再建後も良好な取引関係を築くための土台作り
再生手続開始の決定
裁判所は、再生手続開始の要件が揃っていることを確認した後、再生手続開始の決定を行います。
再生手続開始の要件は、以下のとおりです。
- 会社に支払不能または債務超過のおそれがあること(民事再生法21条1項)
- 再生手続の費用の予納が完了していること(同法25条1号)
- 破産手続や特別清算手続よりも、再生手続による方が、債権者の一般の利益に適合すること(同条2号、「清算価値補償原則」)
- 再生計画の作成・可決・認可の見込みがないことが明らかとはいえないこと(同条3号)
- 再生手続開始の申立てが誠実にされたこと(同条4号)
債権調査
再生手続が開始されたら、債権者の顔ぶれと債権額を確定するために、債権調査の手続きが行われます。
まず、開始決定から一定期間の「債権届出期間」が定められ、債権者は原則としてこの期間内に、自分の債権の金額や原因などを裁判所に届け出なければなりません(民事再生法94条1項)。
届け出が行われた債権については、債務者である会社が認否を行い、認めたものについては再生手続における権利行使が認められます。
一方、会社が認めなかった債権については、債権者は裁判所に対して査定の申立てをすることができます(同法105条1項)。
査定の申立てに対して、裁判所は、当該債権の存否・内容を定める裁判を行います(同条3項、4項)。
査定の内容に異議がある場合には、さらに異議の訴えを提起して争うことも可能です(同法106条1項)。
上記の手続きを経て、再生手続の中で権利行使が認められる債権が確定されます。
財産価額の評定と結果報告
再生手続では、債権額のカット幅を決定するために、債務者である会社がどの程度の資産を保有しているかを把握することも必要です。
そのためには、原則として会社自身が、所有する財産の価額の評定を行うことになっています(民事再生法124条1項)。
評定の結果については、再生計画作成の際の基礎とされるほか、裁判所や債権者集会への報告がそれぞれ行われます(同法125条、126条)。
再生計画案の作成・提出
債務カット後の残りの債務について、会社が再生手続終了後にどのように返済していくかを記したものが「再生計画」です。
再生計画案は、債権調査と財産評定の結果を踏まえて、原則として会社が作成します(民事再生法163条1項)。
ただし、債権者の側で対案を出して、債権者集会における決議にかけてもらうことも可能です(同条2項)。
再生計画案の可決・認可
再生計画が裁判所に対して提出されると、債権者集会において決議の可否が検討されます。
再生計画案が可決されるためには、債権者の「頭数で過半数、債権額で2分の1以上」の同意が必要です(民事再生法172条の3第1項1号、2号)。
債権者集会によって再生計画案が可決された場合、不認可要件(同法174条2項各号)に該当しない限り、裁判所によって再生計画が認可されて確定します。
再生計画案の遂行
再生計画が確定したら、その内容に従い、会社は各債権者に対する計画弁済を行います。
会社再建のご相談は弁護士へ
今回は、民事再生の手続きの流れや、メリット・デメリットについて解説しました。
民事再生は、会社再建のための切り札として有効になります。
民事再生をスムーズに進めるためには、法律の内容を踏まえたうえで、債権者や裁判所と適切にコミュニケーションを取ることが必要不可欠です。
経営の悪化により民事再生を検討している経営者の方は、まずは専門家である弁護士への相談をおすすめいたします。